日曜日が待ち遠しい!
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“笑い待ち”って聞いたことありますか?

用語というほど大層なものでもないけれど、舞台、特に芸人さんの間では日常的に意識されてる言葉だと思います。

ネタや芝居の途中に客席が笑いで沸く、その笑いが大きければ大きいほど、次に続けられるネタ振りやボケ、芝居の台詞などが笑い声や拍手にかき消されてしまうことがあります。
そこで、芸人さんや役者さんは客の笑いが落ち着くまで待つ必要があるわけです。けれど、ただ待ってるだけじゃあ、あまりに不自然なので、いろいろと工夫したりします。
聞こえなくても支障のないことを喋ったり、台詞のない芝居、顔や動きで見せ、スムーズな流れをつくったりする。笑いの効果を確かめるかのように、待ってますよー、というのがわかるような仕草をあえてすることもあるし(スタンダップ・コメディアンがやるあれです)、“笑い待ち”のテクニックは様々です。

ライブでやってるからには、その時々の客によって、笑いのツボや笑うタイミング、拍手の長さが違うのは当然で(演じる側としてはそこも面白さのひとつだろうしね)、稽古通りの“間”で成立することなんてほとんどなくて、そうなると、“笑い待ち”のテクニックというのが重要になってきます。

“笑い待ち”は笑いがおさまるのを待てばいいというものでもなく、笑いがおさまりきる前に次のネタなり台詞なりをスマートに続け、かぶせていくと、劇場内がどんどん盛り上がっていくし、あまり上手くない芸人さんや役者さん、あと、緊張してしまってる人なんかは、粋な“笑い待ち”ができなかったりして、せっかくの面白いネタや台詞が台無しになってしまいます。

すべての芸術において(絵画も建築も陶芸も料理も洋服も音楽も映画も文学も、もちろんデザインも)、“間”の生み出す美しさや感情は、作品をつくり上げる重要な要素のひとつであり、そういう見方をすると、“笑い待ち”というのは、お笑いや芝居の世界では、なかなかに重要な“間”のひとつなんだと思います。



と、なんだか堅苦しいことを言っていますが、なんということか!“笑い待ち”をほとんどしてくれない喜劇を観てきました。

劇団東京ヴォードヴィルショーの『「アパッチ砦の攻防」より 戸惑いの日曜日』。

東京ヴォードヴィルショーの公演を観るのは3本目で、『竜馬の妻とその夫と愛人』以来です。
例によって、三谷さん作です(シットコムの傑作と名高い『アパッチ砦の攻防』の再演らしいです、4回目ぐらいの)。



三谷幸喜といえば、会話劇。
だから当然のことながら、“笑い待ち”を上手くやらないと、台詞が笑いにかき消されてどんどん死んでいってしまう。
なのに今回は“笑い待ち”がほとんどない。
笑い声に構わず芝居が続けられる。
なぜか?

それは、『戸惑いの日曜日』が面白過ぎるからなんです。



『戸惑いの日曜日』には1、2分とか、もしかしたら数十秒にひとつの割合で、笑いどころが仕込まれてるんですよ。
しかも、キャストが14人いるから台詞の量が多くて、3時間ぐらいのお芝居。

これたぶん、“笑い待ち”してると5、6時間かかっちゃうんですよね。
そんなことしてたら、マチネを観に行った帰りにパンフレットを買ってる僕の横で、ソワレを観に来たお客さんがコーヒー飲んでる、なんてことになっちゃいますから。
そして、ソワレのお客さんは終電の時間が気になって、カーテンコールもそこそこに駅へと走る。

やっぱりそれはまずいでしょう。

でも、笑いの数はそのままにしておくために、“会話の笑い”の合間に“動きの笑い”を挿み、基本的には“笑い待ち”をしない、要は“会話の笑い”を耳で聞かせて笑わせる、その笑い声の中“動きの笑い”で視覚的な笑いを生みだす、そういうことをやった結果、観客が笑いっぱなしのハイパー・テンションな喜劇『戸惑いの日曜日』が完成したわけです。



というのが、本当かどうかは知らないけれど、僕はそう感じたんです。



『戸惑いの日曜日』の物語はこんな感じ。

ある日曜の午後。
高級マンション、フォートネス・アパッチのリビングルーム。
ちよみが父親の鏑木研四郎に結婚の報告をしている。そして、娘は婚約者の堤君を呼びに部屋を出ていく。
そこへゴルフバッグを担いだ男、鴨田巌が入ってくる。
鏑木は急に慌て、自分はテレビの配線を頼まれた電気屋だと名乗る。

実は、鏑木は数日前までここで生活していたが、いまはみすぼらしいアパート暮らし。
鴨田こそがこの部屋の主人。
鴨田は、日曜の昼下がり、大きなテレビで大好きな映画『ウエスト・サイド物語』のビデオを観たいのに、いっこうに進まないテレビの配線。

その場しのぎの嘘に嘘を重ね、状況がどんどん悪化していく鏑木と、『ウエスト・サイド物語』が観たかっただけなのに大騒動に巻き込まれていく鴨田。

さて、日曜日の攻防の結末はいかに……。



“その場しのぎの人間”と“巻き込まれていく人間”とくれば、三谷幸喜の面目躍如ですから、面白くないわけがない。
それはそうなんだけど、ここまで面白いと、ちょっとびっくりです。
最後には、しっとりと温かく展開していくあたりも余裕を感じるし。

今年観た中ではベスト5確定です。



この作品は、音声バランスを整えて客席の笑い声を抑えたDVDで観るのもいいかもしれませんね(生がイチバンいいけどね)。
DVDリリースされたら、みんなで観ましょうか。

もちろん、日曜日の昼下がりに。



『Vivement dimanche!』 / Georges Delerue
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by clyde_8 | 2006-09-13 16:40 | 映画/お芝居
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